奥比叡の里より「棚田日詩」 | 台風11号

2014/08/13

台風11号

10日の未明から雨と風が強くなった。雑木林や竹林を激しく揺さぶる強風が、断続的に棚田を吹き抜けていく。穂を付けて2週間ばかりの稲は、風の中で右に左に大きく揺さぶられ、中には倒されてしまうものもある。雨は風に乗って横殴りに降ってくる。少し大きな雨粒が頬に当たると、ピシッと砂粒が当たったように痛い。雨水をため込んだ田んぼからは、溢れ出した水が勢いよく水路や農道に流れ出し、やがて川に合流していく。いつもは川底を覗かせている天神川は、見る見るうちに水量を増し、恐怖を抱かせる濁流となって一気に流れ下っていく。

それでももし、田んぼに貯水機能が無く、降った雨が直接川に流れ込むとしたら、恐らく下流に住む人々はいつも洪水の危険を心配しなければならなかっただろう。

まだ稲穂が米として充分育っていない。収穫まで、早く見積もっても2週間以上はある。こんな時期の台風11号は、農家にとっては辛いものがある。(倒伏をご参照ください)もし稲が根元から完全に倒されてしまうと、予定収量の4割ほどが減ってしまうと予想する人もいる。収穫の作業も何倍もの手間暇が掛かってしまう。農業としては大打撃である。そんな心配の中での台風であった。全国の被害を受けられた農家の方には申し訳ないが、ここは暴風雨圏内にあったとはいえ、台風の中心からは遠く離れていた。そのせいか、倒伏した稲は部分的で少なかった。また、稲穂が成熟前で軽かったのが幸いしたのか、倒れ方も完全に寝てしまうというほどひどいものではなかった。まずは、一安心である。


 

下の写真。この牛は農耕用ではなく、食用となる黒毛和牛である。ちょうど台風の来る一週間ほど前、土手の枯草を食べようとして川底まで滑り落ちたものである。自力で上がることはできないようだった。川は天神川。当時は水量も乏しく、1/3~2/3ほどの川底が露呈していた。牛はこの川底で枯草を食み、水を飲んで、快適に過ごしているように見えた。ところがである。台風によって濁流が押し寄せ、牛の立っている所だけがかろうじて陸地として残される状態となった。実は、川底に落ちた牛は二頭いたのだが、その内の一頭はすでに救出されていた。この後1時間ほど掛かって、この牛も無事に引っ張り上げられることとなった。この写真では分かりにくいが、牛の首は長いロープに繋がれ、土手の上で固定されていた。救出後しばらくすると、下の写真のような濁流が、牛の立っていた所をあっという間に呑み込んでいった。