奥比叡の里より「棚田日詩」 | 土づくり(堆肥)

2014/03/23

土づくり(堆肥)

水ハケが良く、かつ、水持ちが良い。田んぼの土は、この正反対の性質を同時に充たすことを求められている。この相反する要素を土に持たせるために、古来より堆肥が使われてきた。堆肥は、刈り取られた雑草や落葉、鶏や豚・牛馬の獣糞、人糞、稲わら、家庭から出る生ゴミなどの有機物を微生物に分解させることによって作られてきた。堆肥の歴史には様々な考えがあるようだが、古くは縄文時代、大陸からの米の渡来と伴にその技術が入って来たのではないかという説もある。

今日では化学肥料の普及もあって、堆肥を自分で作る人は少なくなっている。ただ西村さん(仰木棚田米嬉しいメール)などは、棚田の一角でご自分で作っておられる。

今日の写真は、田んぼに捨てられた蕪(カブ)である。この他にも、柿やミカンの皮、白菜などの外葉、間引かれた玉ネギなどの野菜、等々の生ゴミ的なものが捨てられている。ここでは「捨てられた」という表現以外に思い付かなかったので、あえてこの言葉を使っているが適切ではない。これらは決して「捨てられた」ものではないからである。農家の人たちからすると、これも土づくりの一つであると考えておられる。この写真の蕪も、やがて土の中に鋤き込まれ、微生物などによって分解され、堆肥的な役割を果たしていくのだろう。

稲刈りの終わった10月頃から翌春の3月頃まで、こうした光景をそこかしこの田んぼで見掛るようになる。殊に、春先には増えてくるように思われる。

古来より米を主食としてきた日本人。その日本人の食生活と生命は、田んぼの片隅に現れるこんな小さな光景にも支えられてあったのではないだろうか。