奥比叡の里より「棚田日詩」 | What a Wonderful World

2013/09/08

What a Wonderful World

8月25日頃から始まった稲刈りも、先々週あたりから雨の日が続いたために少し遅れ気味のように思われる。そのせいで、稲が寝てしまった(倒伏した)田んぼが増えてきている。この辺りはほとんどが兼業農家であるため、土日が晴れてくれないと稲刈りに困る農家も多い。しかしこの土曜日も雨。日曜日は午後から晴れたのだが、土がぬかるみ農機を入れにくい。稲刈りが少しづつズレ込んでいるようだ。それでも米農家にとっては、一年間の総決算の時を迎えていることに変わりはない。

 

仰木の西村さんから今年一番最初に刈り取られた新米をいただきました。今、西村さんが最も力を入れておられる有機栽培米「ミルキークィーン」と「キヌヒカリ」という2品種でした。「食べ比べてみて」と言われているのですが、まだ精米ができていません。今週中には精米をして、ありがたく食べさせていただくつもりです。ただ今年は記録的と言われるほどの猛暑の夏でした。それがお米にどんな影響を与えたのか、少し心配しています。

私は日曜日と水曜日の週2回ほど田んぼに出てみるのですが、季節を問わず最も頻繁にお会いするのが西村さんです。今年の暑い暑い夏も、農作業に汗を流しておられる西村さんに何度もお会いしました。西村さんの米づくりに掛ける情熱には、本当に頭が下がる思いがします。

今年の「ミルキークィーン」と「キヌヒカリ」、今からワクワクしています。

 

この20年ほどの間に奥比叡の棚田のほとんどで圃場整備が済み、四角い大きな田んぼに生まれ変わってきました。小さな田んぼの積み重なった「昔ながらの棚田」は、仰木の平尾地区に残されるだけとなっています。その昔ながらの小さな田んぼを全部集めると60ヘクタールほどになります。仮にこの60ヘクタールという田んぼが平野部にあったとすれば、大きな農機を導入して3人ほどで米づくりをしなければ国際的な競争に勝ち抜いていけないそうです。現在平尾の棚田では、100人ほどの村人によって米づくりが行われています。昔ながらの棚田農業が、いかに多くの労力とコストが掛かってしまうのか、平野部の田んぼに比べていかに経済的に不利な環境に置かれているのか、十分お分かりいただけるだろうと思います。それでも、祖先から守り継がれてきた「昔ながらの棚田」やその「里山環境」を次の世代に残していこう、みんなに美味しいと喜んでもらえるお米を作っていこうと頑張っておられる農家が多くあります。西村さんもその先頭に立って頑張ってこられたお一人です。

すでに日本人の歴史的・文化的遺産となってしまった「昔ながらの棚田」。農という人の営みと自然が長い長い時を掛けて共に作り上げてきた共生空間「里山」。私もこの掛け替えのない「Wonderful World」をぜひ次の世代の子どもたちに残していってやりたいと願ってきました。棚田の畔に立っていると、ルイ・アームストロングの“What a Wonderful World”のフレーズが何度も何度も頭の中に浮かんできます。私は英語が苦手で、この曲の歌詞はよく分かりませんが、理不尽で厳しい現実の社会にあっても、それでもこの世界は、何と美しく素晴らしい世界なんだろうといった意味だったと思っています。美しい曲線を描く「昔ながらの棚田」、そこで営まれる農業経営、その存続すら危ぶまれるほどの厳しい経済的・社会的現実があります。経済的な観点だけから見れば、棚田の零細農業はやがては消えゆく運命にあるのかもしれません。しかしそれでもそこは、何と素晴らしい世界なんだろう!と私は思っています。経済的価値だけでは計れない何かがここにはある気がします。この24年間、そんな思いでカメラを向けてきました。

 

しかしここは、お米の生産現場であり、農業という経済活動が営まれている空間です。昔ながらの棚田の景観や里山環境がどんなに素晴らしくても、先ずはお米が再生産できる価格で売れなければ、あるいは買っていただくことができなければ、この環境を守り、維持していくことはできません。

私は都会で生活する一人でも多くの人々に、この地の美味しい棚田米を知っていただきたいと思っています。ぜひ一度、食べていただきたいと思っています。




新米、いかがですか? 

仰木棚田米を一度食べてみようと思われる方は、

下記のURLを覗いて見てください。

http://tanada-diary.com/tanada-products/fp_01

(上の「仰木棚田米」のイメージ写真は、宣伝ポスター的な感覚で作ってみました)



   去る5月18日、「平尾  里山・棚田守り人の会」と「リビング滋賀」の主催によって、棚田オーナーの方たちの田植えが行われました。その様子は5月26日のDiary「La・ La・ La♪ Ta・u・e」で報告させていただきました。その田植えをされた小さな稲たちも立派に成長し、いよいよ収穫の時を迎えました。9月14日(土)、鎌で刈った稲が稲架に掛けられ天日干しされます。今のところ、曇り晴れといった予報ですが、雨天の場合は順延されるようです。詳しくは下記のURLを訪問してください。

http://oginosato.jp/moribitonokai/index.html