奥比叡の里より「棚田日詩」 | 2012 | 12月

2012/12/30

年の瀬の後片付け

ここ数年、農家はシシ(猪)やシカの害で頭を悩ませてきた。殊にシシの被害は深刻だ。棚田や水路の土手を掘り返し、崩落させてしまう。収穫前のお米を食べてしまう。そればかりか、シシが侵入した田んぼのお米は臭いが移って商品にならないらしい。当然こうした被害に対する対策も打たれてきた。初めは、侵入を防ぐための電気柵が個々に設けられたが、それでは防ぎようもなく、今では2mほどの高さの頑丈な金網で奥比叡の棚田全体が囲われるようになっている。「情けないけど、人間が檻に入って農業をする時代になったんや」とはおじいちゃんの深いため息だ。

ついこの間、夜の11時を過ぎた頃のことである。子連れのシシ数頭が村の路地を駆け抜けていくのを目撃した。人の暮らしとシシ(自然)との境界がいつの日からか失われ、今は金網で人為的な境界を作らざるを得ないようだ。村の人たちにとっては補助金の制度の中とはいえ、余分な資金の出費と労働を強いられることとなっている。私に原因など分かろうはずもないが、中には山のナラ枯れや都市化する環境を指摘する人もいた。いずれにしても、複合的な原因が複雑に絡み合っているようだ。

 

シシ対策の一つとして、彼らの身を隠す所を失くそうということで、棚田にある大きな木が切り倒され、農具小屋なども取り壊されていった。この写真では小さくて分かりずらいが、右端におばあちゃんが土嚢の袋のようなものを二つ下げて畦を歩いている。年も変わろうとする年末、何度も何度も畦を行き来されていた。そして一昨年、この写真を最期に、この農具小屋は姿を消した。おばあちゃんは、そのための後片づけをしていたのだ。ついでに言わせていただけば、この農具小屋は平尾の棚田を彩る無くてはならない名優であった。5月6日の写真もこの小屋のお世話になっている。23年間、個人的な愛着を持ってこの小屋を眺めていただけに、言葉にはならない思いもある。しかし、変わらない風景はない。今は、去りし名優に「ありがとう!」という言葉を贈るだけである。

いずれにしても昨今の事態は、人にとってもシシにとっても、そしてちょっぴりカメラマンにとっても、不幸な時代に迷い込んでしまったように思われる。

 

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5月6日に始めさせていただいた「棚田日詩」も、ようやく年を越せそうなところまで来ました。現在、100~150名ほどの方々に毎週定期的に見ていただいているようです。このホームページはその人々によって支えられてきたと言っても過言ではありません。本当にありがとうございました。

皆様にとって新しい年が、平和で実り多い年でありますことを心よりお祈り申し上げます。

2012/12/23

X’mas present

下仰木にひと際目を引くメリー・クリスマスがある。毎年この時期になると、ある農家の庭先が一夜にして光のアートギャラリーに変身する。クリスマスとは縁遠い私でも、この光のオブジェを見る度に、「ああ、そろそろクリスマスなんだ・・・・・」と実感させられてきた。田んぼの風景だけでなく、こんな都会チックな点景も、奥比叡の農村の今を彩る大切な風景の一つだと思っている。

今年は思い切って写真を撮らせていただくことにした。ご主人にお聞きすると、デザインもご自身でされるそうだ。今年も楽しいイルミネーションだが、数年前の汽車(SL)をテーマにされた飾り付けは今も記憶に残っている。いざ撮影を始めるとおばあちゃんが出てこられ、「この節電の御時世、申し訳なくて・・・・申し訳なくて・・・・」と何度も何度も恐縮されていた。そう言われれば、今年は少し遠慮をされているのか、心なしか地味になっているようにも思われる。1時間ほどの撮影の合間、ご近所の子供連れの家族が訪れ、はしゃぎまわる子供たちとともに記念撮影をされていかれた。撮影をしたいというカメラマンらしき人も何人か来られていた。

人を引き寄せる光のオブジェ。「節電の御時世・・・・」電力需給の信頼できる実態が見えてこないだけに、答えの出しにくい問題ではあるが、近所の子供たちにとっては、楽しいクリスマスのBigなプレゼントであることに間違いない。

 

やはりクリスマスは、ホワイトクリスマスがよく似合う。そんな訳で、雪景色二枚を添えさせていただいた。上の写真、この日は一日雪の棚田で格闘していた。辺りも暗くなり、その帰り道にこの小さな窓の灯りと出会った。冷え切った疲れた体に、なぜか温かさを灯してくれた。下の写真は、田んぼの畝に降り積もった雪の造形である。その雪の上に小さな枯草が顔を出していた。雪の下では、彼らの子供たち(種)が、春の来るのを待っている。

2012/12/16

12月のヒマワリ

この冬のさなか、遠くから見ると菜の花畑かと思うほど田んぼが黄色く色づいていた。近くに寄って見ると、何とヒマワリ畑だった。12月に入った頃は、夏のヒマワリのように元気に大輪の花を咲かせていたが、この日は霜にやられたのか、大分くたびれてしまっていた。それでも大輪の中心部に多くの種を宿して何とか踏ん張っている姿を見ると、これはこれでとても美しく思えてくる。

ここは辻が下の棚田。平成22年に圃場整備を終え、多くの都会の人たちに農地がレンタルされるようになった。その人たちに楽しんでもらうために、一面のヒマワリ畑を作った。と語ってくれたのは飛田さんだった。冬に咲くヒマワリ。いろいろな所に勉強に行かれ、ご苦労されたようだ。実は10月7日の写真、蝶々の飛ぶ紅白のソバ畑も飛田さんが棚田来訪者の観賞用に作られたものである。このソバ畑だけでも、?十万円掛かったそうだ。

飛田さんによると、来年も同じようにソバやヒマワリの花を咲かせていただけるようだ。そんなことを聞かされると、もう来年の今頃が待ち遠しくなってしまう。この日は、昼間でもうす氷の張る冷たい風の中にあった。ヒマワリの種が上手く採れるのか? それが気掛かりである。

 

2012/12/09

初雪

先週の日曜日、仰木にも初雪が降った。と言っても、里にまで降るわけではない。12月の初旬から中旬に掛けての雪は、ほとんどが奥比叡の山々を薄く雪化粧するだけである。それも大抵は、昼過ぎにはほとんど融けてしまい、翌日にはすっかり消えてしまっている。それでも朝起きて、自宅から見える奥比叡の山々が白く染まっていると、子供のように嬉しくなってくる。(あまり雪の降らない地域に住む者の他愛のない感情である。豪雪地帯の方々には申し訳ない気がするが・・・・・)  この日も6時に起きて山を望むと、心はもう雪山の中にあった。車を走らせ山へと向かう。途中、上の風景に出会った。その時、「奥比叡の山が真っ白に染まると、何でか知らんけど、その年の米は美味いんや! 」(*1)というおじいちゃんの言葉がなぜか思い出されていた。「山と田んぼ」は知らないところで深く結びついているようだ。

 

 

(*1)   雪の量とお米の美味しさとの間に因果関係があるのかどうか? 私には分かりません。また科学的に実証されているのかどうかも知りません。ただここでは、村の人たちが「山と田んぼ」との関係をこのように結び付いたものとして理解されているという事実が大切なように思いました。また私自身、山と田んぼは別のもの、別の空間としてカメラを向けていましたが、こうしたおじいちゃんたちに教えられ、今では「山と田んぼ」を一体のものと感じて撮影しています。

 

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これは、余談です。下の二枚の写真をご覧ください。上の雪景色は先週の12月2日、下の紅葉は11月14日、ほぼ同じ所から撮ったものです。わずか半月ほどの間に劇的に変化する奥比叡の山景色をお楽しみください。

 

ご注意!!   奥比叡の山は、500~700mほどの低い山々です。それでも雪の積もった林道を車で走るのはとても危険です!!  谷側はほとんど崖になっていて、転落の恐れが十分にあり、命に係わる事故になることは間違いありません。雪のない所までは車で行けますが、車は迷惑の掛からないところに置いて、必ず歩いて登ってください。この辺りは穏やかな自然ではありますが、甘く見るととんでもないことが起こります。とんでもないことをいくつか経験してきたので、ご忠告申し上げます。なお山だけではなく、雪の降った棚田の農道も極めて危険です!!  絶対に車では入らないでください!!

林道にせよ棚田にせよ、いずれも村の人たちが先祖代々管理されてきたものです。そのことに感謝し、できるだけご迷惑を掛けないことが棚田巡り・里山巡りの基本です。