奥比叡の里より「棚田日詩」 | 2018 | 12月

2018/12/31

北部クリーンセンター

伊香立に白い煙(水蒸気?)を吐き続けている大きな煙突がある。大津市の北部クリーンセンターの煙突である。このクリーンセンターは、簡単に言えば一般のゴミとプラスチックゴミの処理場である。煙突の高さは59ⅿ、平成元年から稼働している。丁度私が、棚田の写真を撮り始める一年前のことである。

 

人はモノを作り、そのモノを消費することによって生きている。それが人間という生きものの基本的な生存様式である。人が生きていく限り、消費されたモノはゴミとなって捨てられていく。殊に大量生産・大量消費の時代は、同時に大量のゴミを発生させる時代でもある。

もしこうしたゴミ処理場がなかったとしたら、もしゴミを収集し焼却する行政や民間のシステムが無かったとしたら、もし住民にゴミ処理に対する高い意識がなかったとしたら・・・・・

私たちを取り巻く生活環境はどうなっていくのだろうか? 大津市の街の姿はどうなっていくのだろうか?  恐らく極短期間の間に、街はゴミの山の中に埋もれていくのではないだろうか。衛生的で快適な生活空間の確保は、環境問題にも配慮したゴミ処理システムの存在が前提となっている。殊に都市部に生活し働く住民にとっては欠くべからざるシステムとなっている。この煙突から立ち昇る白い煙は、一面ではこのことを象徴的に物語っている。

 しかしクリーンセンターの設置には住民からの抵抗もあり、時には政治問題化する事例もあるようだ。そんなこともあってか、概ね各自治体は人口密集度の低い都市の周辺部にクリーンセンターを設置しているように思われる。もちろん都市部の地価の高さや土地確保の困難さなどが理由としてあげられるのだろうが・・・  ここ伊香立のクリーンセンターの設置には、どんな経緯があったのだろうか?

 

伊香立がクリーンセンターの受け入れに同意したことによって、伊香立の圃場整備が加速したのは事実である。そのことが不当だと言っているのではない。当時の村人たちの圃場整備の要求は正当なものである。しかし、クリーンセンターの設置と圃場整備の問題は、本来別の問題であったはずである。それが、どこかでリンクし、取引材料となってしまっていることに少なからず違和感を覚えざるを得ない。恐らくこの違和感は、政治的・行政的目的をそうした手法で実現していく姿勢に対して感じたのではないかと思う。もっともこうした手法は、住民の大きな反対が予測される原発や沖縄の基地問題等々の時には決まって使われる常套手段でもある。

こうした手法の最大の問題点は、一方ではクリーセンターの目的と意義、住民に与えるリスク等々といった問題意識を曖昧なままにし、他方、圃場整備がなぜ必要なのか、なぜ奥比叡の地域でその実現が遅れているのか等々といった問題意識の深まりを阻んでいることである。民主主義の水準は、それぞれの問題に対する住民の問題意識の深さにあると私は考えている。既成事実としてクリーンセンターが設置され、圃場整備が実現した今、私たち住民の問題意識を深めていく機会がいつのまにか奪われているのではないだろうか。こんなところにも、民主主義の形骸化があるように思えてならない。本来民主主義は、面倒くさいものだと思っている。

 

この問題は、30年を経た今日でも尾を引いているようである。昨年末の市議会では、伊香立に落とされる迷惑料的な補助金の妥当性について質疑応答されている。迷惑料というものが必要だとして、その迷惑料がどれほどの、どのようなものになるのか、私に判断基準はない。補助金が行政予算の中に組み込まれている以上、反対者に対してはその大義名分を正々堂々と説明すればいいだけだと思っている。いずれにしても、クリーンセンター設置の過程において住民の問題意識の深まりもないままに、マジックのようにその目的を実現してしまったところに「尾を引いている」一つの原因があるのではないだろうか? もちろん補助金は、その目的に従って誰もが納得する社会性をもって公明正大に使われなければならないのは言うまでもないことである。

このクリーンセンターの問題もそうだが、基本的には受益者がそのリスクも負うべきだという覚悟を持たなければならないと考えている。北部クリーンセンターも、もっと都心部にあっても不思議ではない。しかし現実はそうはならずに政治的・経済的に弱い農村部にリスクが押し付けられていくようだ。こんなところにも都市と農村の歪められた関係の一端が現れているように思えてならない。もしそうだとすれば、この白い煙は都市と農村の歪められた関係を象徴しているのかも知れない。

*  最初の写真は、ため池に映った雑木林である。冬支度を終えた枯れ枝の先端が水面で細かく震えていた。

 


 

2018年、今年も「棚田日詩」を閲覧していただいた皆様に心からの御礼を申し上げます。新しい年も皆様の健康とご多幸、そして夢や希望が叶いますことをお祈り申し上げます。

一年間、本当にありがとうございました!