奥比叡の里より「棚田日詩」 | 2015 | 5月

2015/05/31

ちょっと気掛かり・・・私の自然体験 ⑥

環境省のいう「里山」が、集落を取り巻く二次林や農地、溜池や草原で構成される所、すなわち農村地域そのものを指しているとすれば、普遍化された「里山」の概念は、一体どんな所を指しているのだろうか?

私の家のベランダに、プランターが6個ある。ハーブや野菜を育てているのだが、その内の4個には、田んぼで見かけるのと同じ十数種類の雑草だけが生えている。というよりも育てている。今はカタバミやタビラコなどが黄色の花を咲かせている。その内の一つのプランターは、スミレの葉っぱで覆われている。毎年4月になると、そのスミレが一斉に花を咲かせはじめる。雑草たちのプランターには、クモの巣が張られ、アリやミミズや訳の分からない小さな生き物たちも住みついている。そして毎日、テントウムシや蝶々たち、蜂やヒラタアブ、カナブンなどのお客さんを迎えている。時折、ムカデなどの招かれざる客もやって来て、蝶の幼虫を食べている。夏から秋に掛けて、スミレの種採りに忙しい。やがて冬、何度かの雪が積もるとスミレの葉っぱは緑の色素を失って透明になり、完全に枯れていく。あれほど活発に動いていた小さな生き物たちの姿もなくなっている。それでも、緑の葉っぱのままで冬を越す雑草もある。そして再びの春。プランターでは同じような情景が繰り返されている。

プランターで雑草を育てる一番の目的は、スミレを育てたいためである。というのも、毎年ウラギンヒョウモンという美しい蝶がやって来て、スミレの葉っぱに卵を産み付けていくからだ。小さな幼虫が現れ出すと、スミレの葉っぱは、至る所でカジられ始める。数匹の幼虫がサナギになるまで数十枚の葉っぱをカジり尽くしてしまう。恐ろしい食欲である。後から生まれた幼虫などは、既に食べる葉っぱもなく、餓死してしまうこととなる。それが可哀そうだから、スミレの種を採り、予備のプランターにスミレだけを育てるようにしている。もちろん田んぼに出たら、スミレの種を持って帰るようにしている。サナギになる直前の幼虫は、プランターを脱走し、雨に打たれることのない軒下などでサナギとなってぶら下がっている。そして時が来るとサナギの背を割って、美しいウラギンヒョウモンが飛び立っていく。もう78年、わが家のベランダではこうしたことが繰り返されている。

雑草たちは、プランター全体に隙間もないほど細い根を張りつめている。その土中で微生物やミミズ、虫眼鏡で見なければ気づかないような多くの生き物たちが生きて死んでいく。アリたちはミミズの赤ちゃんや雑草の種を咥えてはせっせと自分の巣に持ち帰って子供たちを育てている。私は専門家ではないのでそれぞれの生きものたちの関係は分からないが、ある生きものの生と死が、他の生きものたちの生存の条件となっており、更にそれが他の生きもの、例えばウラギンヒョウモンの生命を支えているのだろうということは見ていれば分かることである。ここには小さな生き物たちの「生命の小宇宙」、生態系がある。

ここでの私の役割と言えば、水やり・間引き・追い肥・植え替え・種まきなどといったところである。反対に小さな生き物たちは、彼らの生命を見つめる喜びと感動を私に与えてくれている。

ところで、普遍化された「里山」の概念は、人の営みと相互関係を持つ生物学的自然、その生態系、その空間ということである。私の育てている雑草のプランターもまた、人の営みと小さな生き物たちの生態系が相互関係を持って存在している。とすれば、そこはもう立派な「里山」ではないのだろうか?  普遍化された「里山」の概念に従えば、そういう結論になるのではないだろうか?  実際 私はそうした思いを持って、雑草や小さな生き物たちを大切に見守ってきた。

この観点から見れば、私たちの身の回りのどこにでも「里山」は広がっている。(続く)


 

 更新が一月以上延びてしまいました。本来なら、5月10日に更新する予定でしたが、パソコンの故障、OSのインストールや様々な設定などで2週間ほど時間を費やしてしまいました。今回の写真は、その時にアップするものをそのまま使っています。今の田んぼは、もう少し稲がたくましく育ち、棚田全体が緑を濃くしています。2週間おきの更新をお待ちいただいた皆様には、本当に申し訳なく、お詫び申し上げます。

「棚田日詩」も4年目を迎えることとなりました。当初、2年で止めようと思っていたことからすると信じられないほど延びてしまいました。これはひとえに、皆様の閲覧に励まされた結果です。これからの一年をひとまずの区切りと考えて、最後の12ヶ月を頑張っていきたいと思っています。これからの一年も宜しくお願い申し上げます。そして、これまで閲覧していただいた皆様には、心からの御礼と感謝を申し上げます。ありがとうございました!!