奥比叡の里より「棚田日詩」 | 生命(いのち)のざわめき

2012/06/17

生命(いのち)のざわめき

稲の背丈も順調に伸びてきているようだ。稲の成長の早い田んぼでは、株と株の間にあった空間も、増えた茎と葉で埋めつくされ、徐々に田んぼの水面が覆い隠されるようになってきた。そうした田んぼを姿勢を低くして横から覗き込むと、うっそうとしたジャングルのように見えてくる。この写真は、昇ってくる朝日を背景にバッタの美しい姿態に魅せられてシャッターを切った。このすぐ隣の葉っぱの間には金色に輝く蜘蛛の巣が張り巡らされ、子供のような小さなクモが獲物の掛かるのをじっと待っていた。ここは20坪ほどもない小さな田んぼ。稲の葉先に溜められた朝露といくつもの蜘蛛の巣がキラキラと輝いていた。やがて空も白み、辺りが明るくなってくる。オタマジャクシが水面を波立たせ、薄緑のカエルが稲の茎にしがみついている。シジミチョウが飛び交い、名も知らない小さな蛾や虫たちがいっぱい目の中に入ってくる。水面の下をじっと見ていると、ミジンコのような何やら分からない微生物がうじゃうじゃとせわしなく動き回っている。この小さな田んぼに、いったいいくつの生命が生きているのだろう。ザワザワ、ザワザワ・・・・・ 一夏だけの生命のざわめきが聞こえてくる。