奥比叡の里より「棚田日詩」 | 一本桜

2013/04/07

すでに日の出の時刻は過ぎていた。空は厚い雲に蔽われ、朝でもなく夜でもない不思議な光の中にあった。枝打ちされたばかりのクヌギの向こうに、満開の桜と農道が少し妖艶な色彩を帯びて浮かび上がっていた。山道のような曲りくねった農道は、生産性の低い棚田農業の象徴である。条件の厳しい棚田では、平地の3倍・4倍の労力をかけて、収量は1/3・1/4というところもあるようだ。だからといって棚田のお米が高く売れるわけではない。という不条理が美しく目の前にある。

一本桜

上の写真は、今森さんの写真集や著作の中でたびたび紹介され、有名になった棚田の「一本桜」である。ソメイヨシノの寿命は平均60年ほどだといわれている。この老木はすでに樹齢80年を超し、歳を経たものだけが持つ風格と存在感を備えている。この時期「一本桜」を目指して多くの人々がやって来る。棚田はその人々でにわかに賑わいを見せる。この桜の下で、北は東京や横浜、南は広島や福岡の人ともお会いしたことがある。棚田を前景に桜を撮る人、桜の下で記念撮影をされていく人、誰もが棚田独特ののびやかな雰囲気を身体全体に味わって帰っていかれるようだ。

 

 棚田 滋賀県 仰木 棚田米 里山

今週と来週は、この「一本桜」を中心に奥比叡の桜を紹介していきたいと思います。