奥比叡の里より「棚田日詩」 | 2013 | 9月

2013/09/29

  上の赤トンボは、産卵場所を求めて田んぼの中の小さな水溜りを探しているところである。水曜日に同じ田んぼに行ってみると、この写真のトンボから数えて十数世代後の子孫たちが秋の陽射しの中を元気に飛びかっていた。ただ少し心配なのは、トンボの個体数が激減しているように感じられることである。以前は何百という赤トンボが川の流れのようになって、棚田街道http://tanada-diary.com/6588 )を横断する飛翔を見せていたが、最近はそうした光景を見掛なくなった。

  下の3枚の写真は、9月15日(http://tanada-diary.com/7191)と同じように、秋の奥比叡の点景を造形的に捉え、それをデザイン風に構成したものである。

嬉しいメール


 

 9月早々、西村さんから採れたての新米をいただいた。ここ数年、西村さんが最も力を入れて育ててこられた有機栽培米ミルキークィーンとキヌヒカリであった。その辺の様子は9月8日のDiaryをご参照ください。(http://tanada-diary.com/6964

翌週、2種類のお米を精米して食べさせていただいた。もちろんキヌヒカリも美味しいのだが、仰木のミルキークィーンやコシヒカリに比べると比較的粘りが少なく、どちらかと言うとピラフやカレーなどに良く合うお米のように思った。

西村さん一押しのミルキークィーンは、家族の大きな賞賛の中でいただいた。精米されたお米は、やや乳白色。ここからミルキークィーンという名称になったらしい。キヌヒカリよりも水気が多くモチモチ感が強い。適度な甘みの乗った上質なお米の味がする。お米だから、お米の味がするのは当たり前だが、そんな表現しか思いつかない。安物のジャーで炊いているのだが、フタを開けた時の香りも実にお米らしくていい。お米の粒もしっかりと残り、輝いていた。冷めても他のお米より固くならず美味しく思う。普通のご飯としてだけでなく、お弁当やおにぎりにしても合うのかもしれない。まちがいなく、市場に出回っている高級米にヒケをとらないレベルである。

因みにミルキークィーンは、コシヒカリから生まれたお米だそうだ。ただ品質の素晴らしさに比べて、この名称で損をしているのかもしれない。お米はやはり「コシヒカリ」や「ササニシキ」、「ひとめぼれ」や「あきたこまち」といった和名が似合うように思う。その方が美味しそうに思うのは、私だけなのだろうか?  それとも時節柄、外国への輸出を意識した命名なのだろうか?

いずれにしても「ミルキークィーン」、これからの仰木棚田米を代表する品種になっていく予感がした。

とは言っても、私のような仰木と関わりのある人間の評価はどうしても甘くなりがちである。偏りがあるかもしれない。できるだけ公平な感想を聞きたいというのと、この美味しいお米を知ってもらいたいという思いが入り混じって、大阪にいる妻の友人や親戚に食べてもらうことにした。

先週の火曜日、その友人からお礼のメールが届いた。

 

夕食に、

送っていただいた仰木の

『ミルキークィーン』をいただいています。娘が

「このお米、むちゃくちゃ美味しい!」と

叫んでいました。   (*^o^*)

本当に美味しい!!

ありがとう  [\(^o^)/]

 

私が育てたお米ではないが、その感想を聞くのは何故か怖くもあり、期待もある。ワクワク・ドキドキしていた時にこのメール。一番最初にホッとした。その次に嬉しさが込み上げてきた。そして、「やっぱり仰木の米は旨い! 西村さんの米は旨い!」といった変な自信と勇気?が湧いてきた。(何度もお断りしますが、私の作ったお米ではありませんが・・・・・)

 

 


 


 

 

 ほっかほかの採れたて新米、いかがですか?

仰木棚田米を一度食べてみようと思われる方は、

下記のURLを覗いて見てください。

http://tanada-diary.com/tanada-products/fp_01

(上の「仰木棚田米」のイメージ写真は、宣伝ポスター的な感覚で作ってみました)




 

ここはお米の生産現場であり、農業という経済活動が営まれている空間です。「昔ながらの棚田」の景観や「里山環境」がどんなに素晴らしくても、先ずはお米が再生産できる価格で売れなければ、あるいは買っていただくことができなければ、この環境を守り、維持していくことはできません。

私は都会で生活する一人でも多くの人々に、この地の美味しい棚田米を知っていただきたいと思っています。ぜひ一度、食べていただきたいと思っています。但しここでの「仰木棚田米」の応援は、私の勝手な行為であり、お米の売買には一切タッチしていません。

「昔ながらの棚田」で育てられるお米の量は少なく、限られたものです。もし申し込まれたとしても、在庫がなくなり、農家からお断りされるかもしれません。何卒、ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。

2013/09/22

燻炭作り

 籾殻を燻(いぶ)して炭化させた燻炭は、土壌の酸化を防ぐ改良剤として使われてきた。燻炭作りは近年ほとんど見られなくなったが、上の写真のおじいちゃんは毎年々々燻炭作りに励んでおられる。2~3時間ごとに見廻りに来られ、下の方の炭化していない籾殻をスコップですくい、上の煙突の近くにかけていく。それを何度も繰り返す。全ての籾殻が黒く炭化するまで、この作業を一昼夜を掛けて続けていく。おじいちゃんに聞くと「今夜は寝られない」そうだ。おじいちゃんにとっては、もう来年の土づくり・米作りの準備が始まっている。後ろの土手には、彼岸花やススキが秋の陽射しに輝き、すっかり季節の変わったことを教えてくれている。

(昨年の http://tanada-diary.com/1560 をご参照ください)

 


 

ありがとうございます

昨年の5月から始めた「棚田日詩」も、おかげさまで《見ていただいた回数》が10,000回を超えました。これまで100名くらいの方々にしかお知らせしていなかったので、それらの方々に月一回見ていただいたとして、年間1,200回くらいの閲覧にはなって欲しいなぁと漠然と思っていました。ところが、こうした計算が成り立たないのがインターネットの世界だということも分かってきました。インターネットは、私のようなアナログ人間には想像を超えた世界のようです。10,000回の閲覧の中で約6,000回が日本の方々、4,000回が外国の方々に見ていただいているようです。中国・アメリカ・ウクライナ・ルーマニア・台湾・インド・ロシア・カナダ・ドイツ・ポーランド・イスラエル・リトアニア・インドネシア・ニュージーランド・ベトナム・パキスタン・フランス・香港・韓国・スウェーデンといった国々の方に見ていただきました。ホームページの内容・レベルからして、過分な閲覧をしていただいたと思っています。嬉しくもあり、これでいいのだろうか?といった反省もあり、少し身の引き締まる思いもしています。このホームページを見ていただいた皆様に、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

来年の5月までを一つの区切りと考えて始めたホームページです。あと7か月あります。というよりも、まだ7か月も残っているのか?!というのが偽らざる今の実感です。これまでの人生の中で、文章など書いたことのない私が、よくここまで続けてこられたものだと思っています。皆様に励まされて、これからの7か月を何とか走り切りたいと思っています。これからも宜しくお願い申し上げます。

 


 


 

 

 

 ほっかほかの新米、いかがですか?

仰木棚田米を一度食べてみようと思われる方は、

下記のURLを覗いて見てください。

http://tanada-diary.com/tanada-products/fp_01

(上の「仰木棚田米」のイメージ写真は、宣伝ポスター的な感覚で作ってみました)

 


ここはお米の生産現場であり、農業という経済活動が営まれている空間です。「昔ながらの棚田」の景観や「里山環境」がどんなに素晴らしくても、先ずはお米が再生産できる価格で売れなければ、あるいは買っていただくことができなければ、この環境を守り、維持していくことはできません。

私は都会で生活する一人でも多くの人々に、この地の美味しい棚田米を知っていただきたいと思っています。ぜひ一度、食べていただきたいと思っています。但しここでの「仰木棚田米」の応援は、私の勝手な行為であり、お米の売買には一切タッチしていません。

「昔ながらの棚田」で育てられるお米の量は少なく、限られたものです。もし申し込まれたとしても、在庫がなくなり、農家からお断りされるかもしれません。何卒、ご理解いただきますよう、お願い申し上げます。

2013/09/18

稲刈りと台風18号

上の写真は、9月14日「平尾  里山・棚田守り人の会」と「リビング滋賀」の主催による棚田オーナーの方たちの稲刈りの様子です。今回は、私の写真の大先輩である田口郁明さんによる当日の写真です。トリミング、構成の責任は私にあります。

 


緊急報告! 台風18号が去って・・・・・

近畿地方を襲った台風18号は、 9月15日から16日に掛けて京都・滋賀・福井に大きな被害をもたらした。私も長年京都市に住んでいたが、嵐山の渡月橋から水があふれ出すなどということは初めての経験である。

今日18日は、仕事の休日ということもあって棚田に出てみた。何よりも、14日に組み立てられた稲架(はさ)が倒されていないか、稲が飛ばされていないか、そんなことが心配だった。「守り人の会」のフェイスブックを見ると、やはり稲架は倒されていたようだ。

https://www.facebook.com/pages/%E5%B9%B3%E5%B0%BE-%E9%87%8C%E5%B1%B1%E6%A3%9A%E7%94%B0%E5%AE%88%E3%82%8A%E4%BA%BA%E3%81%AE%E4%BC%9A/413397602055631

この写真は、「守り人の会」の方々が稲架を立て直された後のものである。土づくりから始まる一年間の成果が、立派に稲架に掛けられている。

 

ただ残念だったのは、「もち米プロジェクト」が育ててこられたもち米が倒伏してしまっていた。仰木のもち米(滋賀羽二重)は、粘土質の土壌で育てられるため粘りが強くでる。そうしたこともあってか、昔から絶品と言われてきたものである。近年、もち米を育てる農家は少なくなったが、「もち米プロジェクト」のような団体がその再生に取り組んでおられる。

下の2枚の写真、上が9月14日、下が台風後の18日、9月29日に刈り取りをされるそうだが、ちょっと手間の掛かる稲刈りになりそうである。

 

稲の倒伏以外にも、台風によるちょっとした被害はあった。馬蹄形の棚田の横にある駐車場の簡易トイレが強風で倒されかけていた。この駐車場に来るには、車1台がやっとという細い農道を登ってこなければならないが、下の写真は、その農道の右手にある細長い棚田の土手が崩落してしまったところである。この土手は、十数年前の台風の時にも大きく崩れている。

 


 平尾 里山・棚田 守り人の会 

 http://oginosato.jp/moribitonokai/index.html

もち米プロジェクト 

http://oginosato.jp/mochikome/index.html



今日の稲刈りの写真を提供していただいた「田口郁明」さんは、私の勤務する会社のパンフレットづくりに携わっていただいたカメラマンです。今から二十数年前からのお付き合いになります。スタジオでの商品撮影もされますが、本業は風景写真家です。著書に「広沢池の四季」という写真集があります。京都を題材にした写真集は多くありますが、広沢の池だけをテーマにまとめられているのは彼の写真集だけだったと思います。彼の人柄のように、深く静謐な広沢の池が心を満たしてくれます。写真展もまた、関西を中心に精力的に行ってこられました。

http://olympus-imaging.jp/event_campaign/event/photo_exhibition/past_photo_exhibition/120202_taguchi/

2013/09/15

奥比叡、初秋点景

赤トンボ、エノコロ草、コオロギ、萩の花、紫露草、ショウリョウバッタ、彼岸花、ススキ。昨日出会った小さな秋たちである。田んぼに響く蝉の声も、最後の夏を惜しむかのようにどこか寂しげに聞こえていた。週末は台風前の晴れ日とあって、多くの田んぼで大急ぎの稲刈りが行われていた。

 

昨日の14日は、「平尾  里山・棚田守り人の会」と「リビング滋賀」の主催によって、棚田オーナーの方たちの稲刈りが行われた。昨年のように雨は降らなかったが、雲間からの陽射しも強く、稲刈りにはちょっと厳しい蒸し暑い一日だった。本当にご苦労様でした!    稲架に掛けられた稲は2週間後に脱穀されるのだが、月曜日の台風が心配である。

今日15日は、雨の降りしきる中を田んぼに出てみた。稲刈りの終わっていないいくつかの田んぼでは、水が溜まらないように溝切り作業が黙々と続けられていた。

2013/09/08

What a Wonderful World

8月25日頃から始まった稲刈りも、先々週あたりから雨の日が続いたために少し遅れ気味のように思われる。そのせいで、稲が寝てしまった(倒伏した)田んぼが増えてきている。この辺りはほとんどが兼業農家であるため、土日が晴れてくれないと稲刈りに困る農家も多い。しかしこの土曜日も雨。日曜日は午後から晴れたのだが、土がぬかるみ農機を入れにくい。稲刈りが少しづつズレ込んでいるようだ。それでも米農家にとっては、一年間の総決算の時を迎えていることに変わりはない。

 

仰木の西村さんから今年一番最初に刈り取られた新米をいただきました。今、西村さんが最も力を入れておられる有機栽培米「ミルキークィーン」と「キヌヒカリ」という2品種でした。「食べ比べてみて」と言われているのですが、まだ精米ができていません。今週中には精米をして、ありがたく食べさせていただくつもりです。ただ今年は記録的と言われるほどの猛暑の夏でした。それがお米にどんな影響を与えたのか、少し心配しています。

私は日曜日と水曜日の週2回ほど田んぼに出てみるのですが、季節を問わず最も頻繁にお会いするのが西村さんです。今年の暑い暑い夏も、農作業に汗を流しておられる西村さんに何度もお会いしました。西村さんの米づくりに掛ける情熱には、本当に頭が下がる思いがします。

今年の「ミルキークィーン」と「キヌヒカリ」、今からワクワクしています。

 

この20年ほどの間に奥比叡の棚田のほとんどで圃場整備が済み、四角い大きな田んぼに生まれ変わってきました。小さな田んぼの積み重なった「昔ながらの棚田」は、仰木の平尾地区に残されるだけとなっています。その昔ながらの小さな田んぼを全部集めると60ヘクタールほどになります。仮にこの60ヘクタールという田んぼが平野部にあったとすれば、大きな農機を導入して3人ほどで米づくりをしなければ国際的な競争に勝ち抜いていけないそうです。現在平尾の棚田では、100人ほどの村人によって米づくりが行われています。昔ながらの棚田農業が、いかに多くの労力とコストが掛かってしまうのか、平野部の田んぼに比べていかに経済的に不利な環境に置かれているのか、十分お分かりいただけるだろうと思います。それでも、祖先から守り継がれてきた「昔ながらの棚田」やその「里山環境」を次の世代に残していこう、みんなに美味しいと喜んでもらえるお米を作っていこうと頑張っておられる農家が多くあります。西村さんもその先頭に立って頑張ってこられたお一人です。

すでに日本人の歴史的・文化的遺産となってしまった「昔ながらの棚田」。農という人の営みと自然が長い長い時を掛けて共に作り上げてきた共生空間「里山」。私もこの掛け替えのない「Wonderful World」をぜひ次の世代の子どもたちに残していってやりたいと願ってきました。棚田の畔に立っていると、ルイ・アームストロングの“What a Wonderful World”のフレーズが何度も何度も頭の中に浮かんできます。私は英語が苦手で、この曲の歌詞はよく分かりませんが、理不尽で厳しい現実の社会にあっても、それでもこの世界は、何と美しく素晴らしい世界なんだろうといった意味だったと思っています。美しい曲線を描く「昔ながらの棚田」、そこで営まれる農業経営、その存続すら危ぶまれるほどの厳しい経済的・社会的現実があります。経済的な観点だけから見れば、棚田の零細農業はやがては消えゆく運命にあるのかもしれません。しかしそれでもそこは、何と素晴らしい世界なんだろう!と私は思っています。経済的価値だけでは計れない何かがここにはある気がします。この24年間、そんな思いでカメラを向けてきました。

 

しかしここは、お米の生産現場であり、農業という経済活動が営まれている空間です。昔ながらの棚田の景観や里山環境がどんなに素晴らしくても、先ずはお米が再生産できる価格で売れなければ、あるいは買っていただくことができなければ、この環境を守り、維持していくことはできません。

私は都会で生活する一人でも多くの人々に、この地の美味しい棚田米を知っていただきたいと思っています。ぜひ一度、食べていただきたいと思っています。




新米、いかがですか? 

仰木棚田米を一度食べてみようと思われる方は、

下記のURLを覗いて見てください。

http://tanada-diary.com/tanada-products/fp_01

(上の「仰木棚田米」のイメージ写真は、宣伝ポスター的な感覚で作ってみました)



   去る5月18日、「平尾  里山・棚田守り人の会」と「リビング滋賀」の主催によって、棚田オーナーの方たちの田植えが行われました。その様子は5月26日のDiary「La・ La・ La♪ Ta・u・e」で報告させていただきました。その田植えをされた小さな稲たちも立派に成長し、いよいよ収穫の時を迎えました。9月14日(土)、鎌で刈った稲が稲架に掛けられ天日干しされます。今のところ、曇り晴れといった予報ですが、雨天の場合は順延されるようです。詳しくは下記のURLを訪問してください。

http://oginosato.jp/moribitonokai/index.html

2013/09/01

   奥比叡の棚田と出会って2年目の年に撮ったものである。台風の過ぎ去った後、田んぼが気になって出掛けてみた。里芋の大きな葉っぱはボロボロにちぎられ、稲は無残に倒されていた。しかし目の前に倒れているのは単なる稲ではない。倒されたのは、無事の収穫を願って米づくりに励んできた村人たちの思いであった。この光景を目にした時には何とも言えない腹立たしさのような感情が込み上げていた。手作業での稲刈りになってしまうのか、すぐ隣でおじいちゃんとおばあちゃんの溜息も聞こえていた。そうした人間の感情にはおかまいなしにトンボが1匹、秋の陽射しに輝いていた。倒された稲、人の溜息、のどかそうに見えるトンボの飛翔。このアンバランスな風景を前に、何とも奇妙な気持ちでシャッターを切った。

倒伏

稲は、倒れやすい植物である。たわわに実った稲穂は重く、重心が高い。品種改良の過程で倒れやすくなったのかどうかは知らないが、稲は想像する以上に頭デッカチなのである。完全に倒れてしまうと機械での刈り取りが難しくなる。最も最近の農機は優秀で、少々の倒伏ぐらいなら刈り取ってしまう。それでも農作業の段取りは狂ってくる。気温の高い時期にそのまま放置しておくと穂から直接根が出てしまい、商品価値がなくなってしまう。倒れたら1週間くらいの間に刈り取ってしまわなければならないのだが、早くに倒れてしまった稲はそのタイミングが難しい。

倒れやすさは、種類によっても異なる。コシヒカリはこの辺りでは「コケヒカリ」と呼ばれるほど倒れやすい。お米としては最も美味しい部類に入るミルキークイーンも倒れやすい。それらに比べると、キヌヒカリやレークは倒れにくい。

稲が倒れる外的要因は、雨と風が主なものである。その両方が襲ってくる台風は最悪である。しかし、わずかな雨でも倒れることがある。雨の水滴によって自重が重くなり支えられなくなるからである。猪(シシ)が田んぼに乱入して倒してしまうということもある。

化学肥料で育てるのではなく、鶏糞などを使った有機栽培にこだわっても倒れやすくなる。鶏糞はお米の味を美味くするのだが、量が多すぎると倒れやすくなる。適量というのが難しい。

その田んぼの持つ適正収量を越えて作付けしても倒れやすくなる。しかし消費者と契約栽培をしている田んぼでは、価格の問題にも跳ね返ってくるので簡単に収量を減らすこともできない。

土用干しが中途半端でも倒れやすくなる。もっともこれには棚田特有の理由がある。6月下旬から7月中旬に掛けての土用干しの主な目的は、田んぼの水を抜き、土を乾燥させ、過剰な分げつ(成長)を抑えることにある。ところが棚田では、乾燥の度合いが難しい。乾燥が進んでいくと、今度は棚田の土手にひび割れが走り、そこに水が入り込み崩落の危険が増してくる。といって、この土用干しが中途半端になってしまうと、稲の背丈が伸びて倒れやすくなってしまう。

有機で育てた美味しいお米を作りたい、そして契約した収量を責任を持って確保したいと思えば、その年の気象条件なども加味した複雑な連立方程式を解いていかなければならない。毎年8月の中頃になると、稲の倒伏した田んぼがいくつか目の前に現われてくる。農家の終わりのない試行錯誤がそこにある。