奥比叡の里より「棚田日詩」 | 3月の雪

2013/03/10

3月の雪

季節は、三寒四温の中にある。数日前は5月初旬の陽気かと思っていたら、今日はシャッターを押す指先が凍えてしまうような寒さだった。3月の棚田は、冬景色の中に春が芽生えていく季節であり、冬と春が同時に混在している時期でもある。これから暖かい日と寒い日を何度か繰り返しながら、田んぼはやがて春の草花に覆われていく。

 

この辺りでは毎年、3月の中頃にこの冬最後の淡雪が舞う。上の写真がそれである。12月から2月に掛けての雪景色とは、どこか違っている。3月特有の雪景色である。雪の量もさることながら、よく見ていただくと、田んぼの地色が 少し緑色がかっているのがお分かりいただけるだろうか。小さな雑草が芽吹き始めているからだ。この雪が3月下旬あたりに降ると、田んぼの地色はもっと鮮やかな緑になっている。まだ茶褐色の枯草に覆われた棚田にあって、緑や赤や黄色の小さな草花との出会いは、いつも心をときめかせてくれる。それが3月という季節の楽しみであり、喜びである。

 

今日は北風が強く、先週のオオイヌノフグリなども花弁を閉じ、蕾の状態で寒さに耐えていた。それでも今年最初に見る梅の花が、点々と棚田を彩っていた。恐らく先週の暖かな日に一斉に開花したのだろう。白く小さな花を咲かせるタネツケバナ(アブラナ科)、暖かな陽射しを待つ蕾のままのアザミ、動きの鈍いイトトンボ、田んぼの 水溜りに産み付けられたカエルのタマゴ。今日の散歩で出会った小さな春たちである。

帰り際にもう一度棚田を見渡すと、田んぼに溜まった水を抜き、土を乾燥させるための溝掘りが一人の農夫によって黙々と続けられていた。滋賀県  仰木  棚田  棚田米  里山