奥比叡の里より「棚田日詩」 | 歴史

2013/12/29

歴史

棚田の中に大樹が一本。その根元に石塔が置かれている。昔々、この辺りでは夜になると青火がよく浮かんでいたそうだ。子どもたちがそれをたいそう恐れたため、その霊を鎮めるために石塔が建てられたと伝えられてきた。霊は戦国時代の落武者だったのだろうか?  かつてこの地にも、静かに眠ることのできない霊があったようだ。

元々仰木の人達は、百姓の傍ら比叡山延暦寺への物資を担ぎ上げる仕事をしていた。そうした関係もあってか、伝教大師(最澄)の開いた天台宗に帰依する村であった。時は戦国、織田信長と比叡山延暦寺が鋭く対立していた時代。信長方より再三にわたる改宗の圧力があったという。その時、改宗を拒む人、改宗を受け入れる人という形で村は二分されたと聞いている。信長による延暦寺の焼き討ちから、すでに440年以上の時を経ている。それでもこの話を聞くだけで、当時の村人たちの緊迫の様子が伝わってくる。

 

今、仰木の村を歩いていると、天台宗以外のお寺も見ることができる。こうした何気ない日常化した風景の中にも、村が体験してきた一つ一つの出来事、歴史が息づいている。

全ての風景は歴史的でもある。昨日を持たない今日の風景はないし、今日を経ない明日の風景もない。風景はよく見ると、その社会と歴史を語る生き証人なのかもしれない。

2013年、残すところあと3日。奥比叡の村々は、今日も千数百年目の歴史を積み重ねていく。

 


 

この一年、「棚田日詩」を訪問していただいた方々に、心からの御礼を申し上げます。来る2014年も、皆様にとって幸多い年でありますことをお祈り申し上げます。