奥比叡の里より「棚田日詩」 | もう一つの風景

2012/07/08

もう一つの風景

売ること(交換)を目的に作られた生産物は商品である。そうした意味では、棚田で作られるお米は商品である。私の棚田写真は、商品であるお米の生産現場を写したものであるともいえる。しかし、この風景はそれとは少し違う。
   ここは平尾の農家のお庭。梅雨や初夏を代表する紫陽花や半夏生(はんげしょう)の花が咲いていた。片隅にはナスやキュウリが栽培され、ビワやタラの木も立派に育っている。しかしその量からして、ご自宅で食べられるだけのものだと思われる。紫陽花などの美しい草花は、愛情や癒し、喜びや美の対象としてそこに置かれている。これらは商品としてのお米と違って、歩留りや品質、市場価格などというものを気に病むこともない。これは、商品生産という経済からは少し離れたところにある、もう一つの農村風景である。