奥比叡の里より「棚田日詩」 | 再び一本桜

2016/04/03

再び一本桜

年を重ねるに従って、めぐる季節の早さに驚かされる。もう桜の季節である。棚田では多くの田んぼで春耕が行われ、田植えの準備に忙しくなってきた。

この木は「棚田の一本桜」である。空は鉛色の雲に覆われ、時折その雲間からスポットライトが降りてくる。風も強く、雲の流れは速い。スポットライトは、ここかと思えばたちまち別の場所を照らし始める。しばし待つ。幸運にも一条の光が、桜の生命を蘇らせるかのように輝かせてくれた。僅かな時間の中で何度もシャッターを切る。しかし、トラクターの向きや位置が思ったところに来てくれない。

風景写真は、自分の意志だけではなかなか思い通りにはいかないものである。どこか人の人生にも似ているように思った。