奥比叡の里より「棚田日詩」 | 祈り/新しい年を迎えて

2014/01/01

祈り/新しい年を迎えて

もう、何十年くらい前になるだろうか。テレビの正月番組を見ていると、ネイティブアメリカンの族長が「初日の出」に向かって祈りを捧げていた。その祈りの内容は驚くほどシンプルなものであった。「家族が健康でありますように」「家族や部族の仲間が仲良く暮らし、部族間の争いもなく、平和でありますように」「自然が豊かな実りを与えてくれますように」というものであったように記憶している。日本人の伝統的な祈りの言葉に置き換えてみると、無病息災・家庭円満・家内安全・五穀豊穣、そして平和への祈りといったところだろうか。恐らく私たちホモサピエンスの誕生以来、肌の色や民族、国境を越えて人類共通の願いがこの祈りに込められてきたのだと思う。

残念なことに私たち現代人は、まだこの願いを実現するところにまでは来ていない。社会の利害は複雑に絡み合い、今も世界のどこかで硝煙の煙が立ち昇っている。一方で発展途上国と呼ばれる地域では、9億前後の人々が飢餓の淵に立たされ、毎年1,500万人がその飢餓を原因として死んでいく。その内の約500万人が、5歳に満たない子供たちである。他方、先進資本主義国と呼ばれる国々では、需要(消費)を遥かに超える過剰な供給(生産)によって、大量の失業者を孕む「豊作(過剰)貧乏」という奇妙な現象の中で多くの人たちが苦しんでいる。

私個人について言えば、日常の些末な事柄に振り回され、目の前にある出来事にすら満足な対応が取れないでいる。せめて、心の一番奥深いところで、このシンプルな三つの願いをシンプルな形でしっかりと持ち続けていたいと思っている。そんな願いが、私の写真にも宿ってほしいと思っている。

新年にあたって改めて、皆様のご健康と、平和な環境の中での稔り豊かな生活をお祈り申し上げます。そして、奥比叡の村々の農業が、豊かな稔りをもたらしますことを心から願っています。

 


 

1月5日のDiaryは、休ませていただきます。今年もまた、宜しくお願い申し上げます。